2019年1月英国高等教育及び学術情報

2019.01.21

(1)大学学長等が合意なきEU離脱に対し警告
2019年1月4日、英国大学協会(UUK:Universities UK)は、英国が離脱協定を結べないままEUを離脱するに至った場合(注:いわゆる「合意なき離脱」)の、研究、教職員、学生にとってのリスクについて警告する大学学長らの書簡を政府や政治家に送付したと発表した。


この国家議員に対する公開書簡で、UUK、ラッセルグループ*、Guild HE**、MillonPlus***、University Alliance****が、英国全体の150以上の高等教育機関を一団として代表し、合意なき離脱をした場合の影響は“回復に数十年かかるような、学術的、文化的、科学的な後退につながる”旨を述べた。

 

書簡の内容:
我々の5万人のEU出身の教職員、13万人のEU出身の学生、また言うまでもなく1万5千人のヨーロッパで学ぶ英国の学生は、将来についての重大な不安に直面しつつ新年を迎えることになりました。
新しいがん治療から気候変動に対処する技術に至るまで、重要な研究協力関係が危機にさらされます。学生、教職員、知識に関する、価値ある交流は深刻な被害を受けるでしょう。そして我々は、サプライチェーンから安全保障や旅行にまで至る合意なき離脱の影響について、ビジネス上の懸念をお伝えするものです。

また、この書簡の中で大学学長らは、政府は“求められている事項を実際に示し、正しい手段と保証を打ち出し、そして、重要なこととして3月29日に合意なきEU離脱により英国がEUから脱落することを避ける”必要があると述べている。緊急を要する事柄として、学長らは、英国が3月末で除外されることになりかねない研究資金の代わりが保証されることを必要としている。


UUKによれば、欧州研究評議会(ERC)およびマリー・スクウォドフスカ – キュリー・アクション(MSCA)の制度は英国にとって今後2年間で推定13億ユーロの価値があり、新たながん治療や気候変動への対処を含む重要な科学的発見にも投資している。現在、英国はドイツを上回りERCの事業受託に最も成功している国であるが、合意なき離脱の場合は即座にその資格を失うことになる。


*ラッセルグループ:英国国内で最高水準の研究レベルを持つ24大学で構成される団体。


**Guild HE:大学、カレッジ、継続教育カレッジ、専門職の教育機関などからなる、英国高等教育界の代表組織。


*** Million+ Group:旧ポリテクニクとして1992年に大学の地位を認められた高等教育機関を中心とする21の大学で構成される団体。


**** University Alliance:主にビジネス領域を専門とする16の大学で構成される団体。


UUK:University leaders warn against No Deal as vital research comes under threat

 

 

(2)新大学担当大臣、大学研究の経済的重要さを強調
2018年1月4日、リサーチ・イングランド(RE:Research England)は、新大学・科学担当大臣であるChris Skidmore氏がREを訪問し、大学研究の経済的重要性を強調したことを発表した。


Chris Skidmore大学担当大臣のコメント:
“本日、REを訪問し、職員と歓談したことに大変満足している。大学の研究や知識交換活動は、英国の経済に重要な貢献をしており、我々の最新の産業戦略*の推進や、国のあらゆる地域への利益を保証することに役立っている。REが配分する資金は、大学の重要な経済的・社会的貢献を支えることに不可欠なものである。”

 

執務室の視察や職員との歓談だけでなく、大臣は、REが大学に毎年配布している20億ポンドの公的資金について詳細な議論を行なうため、REの会長であるDavid Sweeney氏や上層部の職員と面談した。この資金は、政府の産業戦略*を実行する上での重要事項であり、2027年までに研究開発へGDPの2.4%にあたる投資をするという産業戦略の目標に合致するものである。


*最新の産業戦略(Modern Industrial Strategy):2017年11月に英国政府が示した政策文書。


RE:Universities Minister highlights economic importance of university research on visit to Research England

 


(3)EUからの学生数が減少
2019年1月4日、ラッセルグループ(RG:Russell Group)は、同グループに属する大学から2018年12月に得た新しいデータが、2018/2019学事年度に各課程へ入学したEUからの学生の数が3%減少し、その減少は大学院レベルの研究課程において最も大きいということを示していると発表した。


前年度の2017/2018学事年度では、EUからの学生全体で、平均としてわずか1%の増加しかなかった。これは、それまでの年に報じられていた堅実な伸びとは対照的である。高等教育統計局(HESA:Higher Education Statistics Agency)のデータは、RGの大学に入学するEUからの学生の数は、2012/2013学事年度から2016/2017学事年度までのそれぞれの年の間に5%、4%、4%、7%の成長をしていたことを示している。(現在使用可能な最新のデータ)


2018/2019学事年度にRGの大学で課程を開始したEUからの学生の減少は大学院レベルで最も顕著であった。学部レベルではわずかに1%の伸びでしかなく、大学院で学ぶEUの学生(例えば、修士課程を学んでいる学生)は5%減少しており、大学院で研究をする学生(例えば、博士課程の学生)の数においては9%の減少となっている。

 

RGの大学で課程を開始したEU出身学生の、前年度からの変動割合
2017/18  2018/19
学部  0%  +1%
大学院で学ぶ学生  +4%  -5%
大学院で研究する学生  -9%  -9%
合計  +1%  -3%

 

RGの上級政策分析担当であるHollie Chandler氏は、“英国のEU離脱と、英国とEUの将来の関係にまつわる不確実さが大きな要因だと考えるのが正しい見方だろう”としている。


RG:Fall in EU student numbers

 


(4)シンクタンク報告:学位による収入増加は学生ローンでの多額の借金に見合うのか
2019年1月7日、Onward(英国の独立系非営利シンクタンク)は、高等教育への資金配分に対する新しい政策提言の報告書を発表した。この報告書の中では、大学卒業生の学生ローンを半減させるための卒業生への新しい税制優遇や、卒業生の収入が薄弱で、納税者にとっても税金を投じる価値が低い大学の課程への資金配分を減らすことが論じられている。


報告書はNeil O’Brien国会議員、Will Tanner 氏、Guy Miscampbell氏の共同著作で、(卒業生の)長期的な収入という高等教育の成果に関するデータを新たに教育省(DfE:Department of Education)が公式に分析したものが含まれており、以下のことを明らかにしている:

・卒業生の18%から25%は、5万ポンドに及ぶ学生ローンの返済を正当化しうるだけの生涯収入の増をもたらすことができない課程で学んでいた。
  ・2015/2016学事年度において、40%の卒業生は、卒業5年後に収入の中央値が学生ローンの返済開始収入である25,000ポンドを下回る課程に入学していた。10%の学生は、卒業10年後でも収入の中央値が25,000ポンド未満であった。これは、卒業後10年を経ても学生ローンの返済をしておらず、かなりの利子がたまってしまっている学生が毎年134,000人いることになる。
  ・それまでの収入や、アプレンティスシップ(注:見習い制度)が持つ特典を考慮に入れると、卒業5年後の時点で、5人に1人の卒業生は、大学進学の代わりにアプレンティスシップなどの大学に行かない進路を選んでいたような場合よりも収入が低い。  
  ・この報告書が独自に行った世論調査によると、大学に行く学生の数が十分ではないと考えているのはわずか25%であったのに対し、44%の人々が、“あまりに多くの学生が大学に入っている”と考えている。学士課程について大学の受け入れ先が多すぎると考えている人は47%に達し、大学に進んだ者が進学から受ける利益を得ているとは感じていないということを示唆している。


報告書では下記のことを勧告している:
  ・学生をより高い見返りのある進路に誘導するために、課程が持つ将来の収入の見込みに応じて9,250ポンド(注:現行の上限額)の学費を課すか、または価値が低いとされる学部に対して必要な成績の下限を作ることで、卒業生の収入増との関係で低い経済的価値しかもたらさない課程へ入学をしにくくする。
  ・学生が、より良質で多岐に渡る技術教育制度、特に高等レベルの技術資格やアプレンティスシップのような、多くの大学の学位よりも高い収入増をもたらすようなものを通じて資格を取得することを奨励する。
  ・200万人の卒業生の学生ローン返済を半減するため、1ポンド当たり50ペンス(注:1ポンドは100ペンス)を減税する、大卒者への税制優遇措置を導入する。これは、若者の手にお金を戻しつつ、過去、現在、未来において学生ローンを返済する全ての者に適応されるため、費用の削減や将来の返済条件に関し利点がある。

 

Onward:New Onward research: A Question of Degree(報告書PDFあり)

 

 

(5)リサーチ・イングランドが知識交換評価制度の協議を開始
2019年1月9日、リサーチ・イングランド(RE:Research England)は知識交換評価制度(KEF:Knowledge Exchange Framework)がどのように機能するかについての詳細な提案書を協議用のものとして公表し、その提案に関して高等教育界の見解を聞きたいとした。


この協議は2019年3月14日の正午まで開かれており、イングランドの高等機関はウェブ上の調査項目を記入することで参加できる。


KEFの協議文書に挙げられている提案内容は、2017年の産業戦略白書*に示された、KEFについての政府政策の優先事項を実施することを目的としている。


また、このKEFについての協議文書は、イングランドの高等教育機関のためにKEFについての最初のやり取りとして、提案された構想と実施計画の詳細を示している。協議されている提案内容は、2018年11月に発表された3つのKEF関係文書を基にしている。それは1:KEFのエビデンス収集呼び掛けへの反応、2:KEFクラスター分析レポート、3:KEFテクニカルノートである。文書の中には前大学、科学、研究及びイノベーション担当大臣のSam Gyimah氏からREの会長であるDavid Sweeney氏への書簡も含まれており、その書簡ではREから大臣への助言事項に示されているようにKEFの作業を進めることが求められている。


REでは、2019年2月から4月の間で代表的な高等教育機関とともにKEFの試行を計画している。


*最新の産業戦略(Modern Industrial Strategy):2017年11月に英国政府が示した政策文書。


RE:Research England launches Knowledge Exchange Framework consultation

 

 

(6)変性疾患や難病に対処する新しい日英間研究協力
2019年1月10日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS:Department for Business, Energy & Industrial Strategy)は、日英両国の医学研究者が、糖尿病、心疾患、関節炎のような、患者を最も衰弱させる変性疾患の一部のための治療についての研究を推進するために力を合わせることを確認したと発表した。


 ・新しい日英の研究プログラムが慢性変性疾患の患者の治療を助け、新世代の生活補助製品やサービスの開発のために日英の企業を結びつける。
 ・両国はまた、科学とイノベーションに関する新たな提携並びにビックデータ及びロボット工学の倫理的な使用に合意。
 ・このことは、英国の新産業戦略*と、日本における同様の戦略であるSociety 5.0(ソサエテイ5.0)の一部として、科学とイノベーションにおいて双方の強みを結びつけることを目的とする。


英国のMay首相、ビジネス大臣Greg Clark氏、そして日本の安部首相は、両国のすべての分野を変革し、人々に長寿をもたらし、より健康な生活を可能にする、新しい技術とイノベーションを推進するための、3,000万ポンドの新たな研究協力を発表した。


この研究協力には、英国医学研究会議(MRC:Medical Research Council)と日本医療研究開発機構(AMED)による、再生医療を進歩させるという1,000万ポンドの事業も含まれている。この研究は、人間の健康における重要な再生過程を理解することや、研究から患者を治療するための道具や技術を生み出すことに役立つことになる。これは、脳腫瘍や白血病を含む様々なタイプの癌に対して用いられる治療法や、運動ニューロン疾患やパーキンソン病、多発性硬化症を含む変性疾患によって引き起こされる障害の回復に繋がる可能性がある。


新規企業も含む英国と日本の企業は、新しい世代の生活補助製品を開発し、世に示していくために協力することで、これを支援することになる。人工知能やロボット工学を生活補助に用いることに焦点を当てた共同の競争を通し、企業は安全で、倫理的で、人工知能を備えた家庭環境を作ることを支援する資金を得ることができる。さらに、英国は、日本が主催するWell Ageing Society Summitや、痴呆症のための世界円卓会議にも参加していく。


GOV.UK:New UK-Japanese research partnership to tackle degenerative and incurable diseases